2022年06月12日
【症例】寝つきがわるく寝てもすぐ目が覚める心腎不交の不眠
症例など
34歳 女性 勤務 相談月 202X年 11月
主訴
2年前より寝つきが悪く寝てもすぐに目が覚める不眠が続いている。眠れない時はトータルで4時間未満。頻度はその時の精神状態に左右され、心配事がある時は、週に2,3回不眠に陥る。心療内科で薬物療法(ベルソムラ等)を受けたがむしろ悪化したように感じる。思い当たる原因としては、前職が激務のため夜10時まで残業することもざらで常に睡眠不足、エナジードリンクを飲んで無理矢理身体を目覚めさせて出勤していた。現在は転職し定時で退社できている。
随伴症状
気分の落ち込み 寝汗 手足のほてり 夜間頻尿 (休日に)頭痛と胃痛
被害妄想(何かにつけ疑心暗鬼となり、職場でのぎくしゃくした人間関係、ママ友の輪に入っていけない等生き苦しさを感じることが多い)※メンタル症状は不眠になる以前からあるとのこと。
所見
脈診:浮細遅 舌診:淡紅 舌辺舌尖紅 痩舌 舌苔:少 腹診:右天枢・左天枢・右大巨に圧痛
弁証(タイプ)
心腎不交の不眠
治法
交通心腎
選穴
腎兪 肝兪 心兪 照海 神門 労宮 湧泉
経過
メンタル症状は残るものの一度の施術で不眠が劇的に改善した。寝つきの悪さ、中途覚醒がなくなりぐっすり眠れるようになった。施術前は睡眠不足のため、常に倦怠感と眠気があり心の余裕も無かった。施術後は、寝つきが良くなり朝までぐっすり眠れる日が格段に増えた。以前はアラームが鳴る前に目覚めていたが、今では二度寝するほどになった。以前は二度寝はあり得なかった。
考察
施術後に舌尖と舌辺の赤みが消えたため心肝の熱が清熱されたと推測される。心腎不交は腎陰不足と心陽亢進が同時に起こる病症で、心と腎は昇降、陰陽の関係にある。心の陽は下に下降して腎陽を温め、腎の陰は上昇して心の陽を抑える。このバランスが取れていることを「心腎相交」といい、内傷七情による火化、考えすぎ、慢性疾患などによってバランスが崩れることを「心腎不交」という。「心腎不交」とは、陰虚の人が心に熱を持った状態で、腎陰が心の熱を冷ますことができなくなって不眠を引き起こす。このケースでは、たった一回の施術で腎陰が補われ、同時に上昇して心の火を消したことが舌診で確認できた。この場合、心火上炎(肝火上炎)との判別が紛らわしかったが、手足のほてりや寝汗など陰虚の症状があることと、不眠が慢性化していることから心腎不交の不眠と判断した。
神不安則不寝 ~東洋医学の不眠~
東洋医学で「神明をつかさどる」といわれる心は、精神活動をコントロールしている。神明とは意識、思考等の精神活動のこと。
「神不安則不寝」とは、心が不安定になると神明が不安定となり不眠になるという意味である。
眠るためにはチカラが必要で、気虚や血虚の虚証では、パワー不足のため不眠になる。
急性や初期の不眠の多くは実証ととらえ、まずは清熱することが必要である。
慢性化した不眠は虚証ととらえ、まずは気血陰液を補うことが必要である。
このケースのような陰虚では、虚熱が起こり神明を安らげることができないため不眠になる。気血陰液を補うことにより心の虚熱を鎮めて神明を安定させることが必要となる。
肝火上炎・心火上炎(実証の不眠)
実証で急性の不眠。肝気鬱結からの転化や内情七情(ストレス)からの化火によって起こる。
症状:
【肝火上炎】イライラして眠れない/目がさえて眠れない/顔色が赤い/眼の充血/口が苦い/多夢/強い頭痛・めまい・耳鳴り/鼻血/胸や脇腹が熱っぽくて痛い/鮮紅色の経血/便秘/尿が黄色/舌質紅/舌辺点刺/舌苔黄
【心火上炎】イライラして眠れない/目がさえて眠れない/落ち着きがない/多夢/顔色が赤い/口渇/尿が黄色/口内炎/舌炎/舌質尖紅/舌尖点刺
治法: 清熱瀉火 鎮静安神(肝と心の火を鎮め神経を安らげる)
選穴: 合谷 内庭 復溜 大椎 神門 印堂 百会
漢方: 黄連解毒湯 柴胡加竜骨牡蠣湯 竜胆瀉肝湯
肝血虚の不眠
過労や慢性疾患、慢性炎症などにより肝血が不足したため起こる。
症状: 眠いが眠れない/多夢/めまい/顔色が白くツヤがない/視力低下/爪が割れやすい/月経量減少/遅経/閉経/動悸/手足のしびれ/こむらがえり/舌質淡白/舌苔白
治法: 滋補肝血(肝血を補う)
選穴: 血海 曲泉 膈兪 肝兪
漢方: 酸棗仁湯 四物湯
心脾両虚の不眠
慢性疾患、過労、過度の思慮などによって脾胃が虚弱になり、気血の生成と統血が上手くいかなくなって起こる。
症状: 眠いが眠れない/多夢/健忘/動悸/食欲不振/下痢・軟便/疲労倦怠感/顔色がうす黄色/皮下出血傾向/思い悩み/過多月経/崩漏/閉経/舌質淡白
治法: 補益心脾(心気と脾気を補う)
選穴: 心兪 膈兪 脾兪 神門 足三里 太白
漢方: 加味帰脾湯 帰脾湯
心腎不交の不眠
内傷七情による化火、過度の思慮、慢性疾患、房事不摂生などで腎陰を消耗し、心陽を抑えられなくなって起こる。
症状: 寝付けない/寝てもすぐに目が覚める/動悸/めまい/耳鳴り/健忘/足腰がだるい/頻尿/五心煩熱/潮熱/寝汗/舌質紅
治法: 交通心腎(心と腎の陰陽を交通させる)
選穴: 腎兪 心兪 神門 照海飲
漢方: 六味地黄丸 清心蓮子飲
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