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2024年08月05日

症例)帯状疱疹後神経痛(PHN)が鍼灸治療で改善がみられた一例

日々のツボ


帯状疱疹は、80歳までに3人に1人が発症するといわれる急性疾患です。大規模調査によると、帯状疱疹の発症率はこの25年間で増加傾向にあるといわれています。
帯状疱疹とは?
帯状疱疹とは、ヘルペスウイルス科に属するウイルスの一種である水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる急性皮膚炎証疾患のことです。VZVは”みずぼうそう”にかかった時のウイルスが不活性化して脊椎の後根神経節に潜伏し、疲労や疾病等で細胞性免疫が低下したことをきっかけにして発症します。
帯状疱疹発症のリスク因子
①がんや糖尿病などの持病を持っている
②インフルエンザや新型コロナなどの感染症にかかっている
③70代以上の高齢者
④過剰なストレスを受けている
⑤膠原病など自己免疫疾患で免疫抑制剤を服用している
⑥数週間以内に骨折や傷等の外傷を受けた
細胞性免疫が低下した際に、①~⑥をきっかけに再活性化して帯状疱疹が発症するといわれています。
帯状疱疹後神経痛(PHN)とは
帯状疱疹は通常ピリピリ、ズキズキといった疼痛を伴いますが、疱疹がかさぶたとなり治癒した後から3カ月経過しても神経痛が残存する状態を、帯状疱疹後神経痛(PHN)といいます。
帯状疱疹後神経痛(PHN)のリスク因子
帯状疱疹後神経痛に移行し難治となるリスク因子は以下の7項目であるといわれています。
⑦帯状疱疹部位の皮膚知覚の低下が大きいこと⑧帯状疱疹が広いこと
⑧高齢であること
⑨免疫不全をもたらす基礎疾患(糖尿病、癌、ステロイド内服中、免疫抑制剤内服中)が在ること
⑩帯状疱疹の発症部位が顔面、脇窩であれば難治となり易い。
⑪帯状疱疹発症初期に(72時間以内に)抗ウイルス薬の投薬を受けていない。
⑫帯状疱疹後神経痛発症(移行)初期に適切な治療を受けていない。

本症例では、リスク因子⑤⑥⑦⑧⑨⑪を合わせ持ち、重症の帯状疱疹を発症し帯状疱疹後神経痛(PHN)に移行したが、鍼灸治療によって改善したと思われる事例について述べています。





症例) 72歳 女性
主訴:下部腰椎の帯状疱疹神経痛(左)
既往:坐骨神経痛(右)

X-1年5月より当院にて、右坐骨神経痛の主訴で診ている患者さん
全身性エリテマトーデス(SLE)の基礎疾患を持つ。
SLE治療薬としてステロイド服用中 コロナワクチン接種歴なし
病証名:腎陰腎陽両虚証(陽虚>陰虚) 瘀血疏絡
治 法:活血化瘀 滋補腎陽 滋補腎陰 

経過
X年4月7日
当院受診。坐骨神経痛による間欠性跛行はだいぶ良くなっている。リウマチの外反母趾によるウオの目もだいぶ小さくなり歩行が楽になった。SLEによる午後の発熱もなくなった。いつものように施術する、全身的な冷えを訴えたため命門に温灸を添付してご帰宅いただく。温灸の長時間使用は低音火傷のおそれがあるため、帰宅後に剥がすよう指示。しかし、帰宅した際に、庭の雑草が伸びているのが気に掛かり、小一時間ほど草むしりに没頭した後にやっと温灸を剥がす。軽い発汗があった。
X年4月8日
翌日になって、温灸を剥がした跡にピリピリヒリヒリするような皮膚感覚があったが、低音火傷と思い込み1週間放置した。
X年4月15日
左腰部~腹部の異変に気付き近所の皮膚科を受診
X年4月15日~22日
専門医にて帯状疱疹重症診断を受け、基礎疾患も考慮し緊急入院となる
X年4月28日(帯状疱疹発症後 第1診 NRS※10)
左腰背部から腹部にかけて水泡は見られず、赤く瘢痕化している
左腰の脇のあたりにピリピリ、ズキズキ、ジンジン、焼け付くような痛みも感じるという。痛みは間断なく続き、あまりの痛さに不眠が続いている。合谷と太衝の瀉法を中心とし補腎および免疫力向上を目的とした補法を加えた。
X年5月12日(帯状疱疹発症後 第2診 NRS10)
痛みに変化なく、痛い!!と叫び声をあげるほどである。
痛みの性質がズキューンズキューンといった鋭い痛みに変化
灼熱感は減ってきたが、服が摺れただけで痛むアロディニアが出てきた。
また痛む場所が、左協胸部から背部に移ってきた。
前回同様合谷と太衝の瀉法を中心に補腎と免疫力向上を目的とした補法を加えた。
X年5月25日(帯状疱疹発症後 第3診 NRS10)
やはり間断なく1.2分に一回のペースでキューンキューンと鋭い痛みが走るため、不眠が続いている。アロディニア継続、灼熱痛は収まった。補腎と免疫力向上を目的とした補法を加えるとともに、長野式の気水穴治療を実施した。自宅施灸として左手の龍眼穴に毎日台座灸を3壮据えるよう指示。
X年6月9日(帯状疱疹発症後 第4診 NRS9)
痛みの性質に変化。キューンキューンといった刺痛から、ギューっと締め付けるような痛みに変わってきた。痛みの頻度は若干減じた。痛みのため不眠が続いている。帯状疱疹の神経痛が減じたためか、右の坐骨神経痛が出てきた。散歩に出るようになったためか足底のうおのめが痛み出した。引き続き補腎と免疫力向上を目的とした補法を加えるとともに、長野式の気水穴治療を行う。自宅施灸としては龍眼穴に加えて左足通谷に毎日台座灸を3壮据えるよう指示。
X年6月22日(帯状疱疹発症後 第5診 NRS8)
相変わらず左後ろ寄りの脇腹が痛むが、全体としてが軽くなってきた。頻度は2.3分間に1度に減じ、キュっとつねられるような痛みに変化、痛む場所が脊柱寄りに移動してきた。補腎と免疫力向上を目的とした補法を加えるとともに、長野式の気水穴治療を行う。自宅施灸は引き続き左龍眼と左足通谷に毎日3壮据えるのに加えて、太陽経の井穴のツボ押し(刺激を与える)を指示。
X年7月6日(帯状疱疹発症後 第6診 NRS7)
痛みはまだ続いているが、夜眠れるようになってきた。腰背部に加えて左腹部も痛むようになってきた。前後で痛みの性質が異なり、腰背部がキュとつねられるようなどちらかと言えば鋭い痛みであるのにたいして腹側は重いような鈍いような痛みである。いっぽう右坐骨神経痛が顕在化。引き続き補腎と免疫力向上を目的とした補法を加えるとともに、長野式の気水穴治療を行う。自宅施灸は引き続き左龍眼と左足通谷に毎日3壮、左の陰陵泉にも3壮加えるよう指示。
X年7月27日(帯状疱疹発症後 第7診 NRS7)
夜は良く眠れているが週に2、3回痛みのため中途覚醒する。左腹部の痛みが脇腹に移動し範囲が縮小した。引き続き補腎と免疫力向上を目的とした補法を加えるとともに、長野式の気水穴治療を行う。自宅施灸は全て左の前谷、足通谷、渓侠、液門に毎日2,3粒据えるよう指示。
X年8月10日(帯状疱疹発症後 電話で問診 NRS5)
痛みのため夜眠れないということは無くなったが、キューンとつねられるような痛みはまだあるとのこと。痛む場所は狭まってきており、痛みの程度も初期に比べて半減した。引き続きお灸を継続するよう指示。

※NRS (Numerical Rating Scale)
「患者さんが感じている痛み」を数字で評価した指標。





考察
帯状疱疹発症のリスクファクターに「外傷」がありますが、この患者さんのようにもともと皮膚がよわく湿潤して脆弱な状態となってしまった場合、帯状疱疹が発症する可能性が高いことが報告されています。基礎疾患があり細胞性免疫が低下しやすい患者さんにたいする督脈や膀胱経の施術は(自宅でのセルフケアを含めて)細心の注意を払わなければならなかったのですがそれができていませんでした。患者さんは1年前から施術している方で信頼関係が出来ていたため、幸いにもクレームには繋がりませんでしたが、初診の方や施術歴の浅い方の場合はクレームに繋がる可能性が高いと思います。反省するとともに、今後はこのようなことが起こらないように、当たり前のことですが、しっかりヒアリングしたうえで、安全な方法で、その方に適切な施術を提供していきたいと思います。また、早い段階で龍眼穴などの特効穴や長野式気水穴処置を採用していれば、改善のスピードが早まったのではないかと悔やまれます。古典的な特効穴や長野潔先生の創始された長野式治療がPHNに効果が高いことを身を持って知る機会となりました。


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